もしあなたが自分の子供から、日々罵声をあびせられたり、暴力を加えられていたのなら、自分の亡き後はこの子に財産を残したくないと思いますよね。ですが、例え遺言で全財産を他の相続人等に相続させても、自分の子には遺留分がありますので、遺留分相当の財産が子に渡ることになります。
そこで民法は、「遺留分を有する推定相続人が、被相続人に対して虐待をし、若しくはこれに重大な侮辱を加えたとき、又は推定相続人にその他著しい非行があったときは、被相続人は、その推定相続人の廃除を家庭裁判所に請求することができる」(民法第892条)と定めています。
つまり、これらの事情があり、家庭裁判所に認められたのならば、その相続人は自分の相続人ではなくなるのです。ですが、この制度が乱用されてしまうと大変なことになります。そこで、裁判所の判断にあたって、被相続人の主観だけではなく、行為当時の社会意識、倫理、遺留分権、相続権の意義との関連で客観的基準で行われるのです。さらに、その言動や発生原因、継続性など諸事情も考慮され、被相続人にも原因がある場合には、廃除要件に該当しないという審判例もあります。
では、実際に廃除となった事由を見てみましょう。
Ⅰ 推定相続人が被相続人に対して「80歳まで生きていれば十分だ、千葉へ行って早く死ね」「火事になって死んでしまえばいい」「病気で早く死ねばいい」などの言動をなしたことが一過性のものではないとして「重大な侮辱」があったと認めました。(東京高決H4.10.14)
Ⅱ 被相続人の長男が、借金を重ね、被相続人に2000万円以上を返済させたり、長男の債権者が被相続人宅に押し掛けるといったことで、被相続人を約20年にわたり、経済的、精神的に苦しめてきたことは、民法第892条の「著しい非行」に該当するとしました。(神戸伊丹支決H20.10.17)
【相続・遺言の法律相談/高岡信男】
廃除の申し立ては、被相続人からしかできませんが、遺言で廃除の意思表示をした場合には、遺言執行者からの申し立てもできます。申立てをするのは、(審判の場合は)被相続人の住所地又は相続開始地、(調停の場合は)相手方の住所地を管轄する家庭裁判所です。「推定相続人廃除の調停申立書」を提出します。申立て費用は収入印紙1200円、予納郵便切手代(裁判所により異なる)です。調停を経ずに審判の申し立ても可能ですが、話し合いをすることが期待されているため、職権で調停に付される可能性が高いでしょう。
現状、家庭裁判所は廃除についてとても慎重で、認められた例は少ないです。また、推定相続人が異議を申立てすると認められない場合がほとんどです。
ですので、遺留分を有する推定相続人には、遺留分の放棄をしてもらうといいですね。